はじめに
アートメイクを始めたいナースがクリニックに声をかけてくる。
最近、こういうケースが本当に増えています。
「施術は私がやります。先生は名前だけ貸してもらえれば」
「週に数回だけ部屋を使わせてもらえれば大丈夫です」
「お金のことはこちらで管理するので」
この言葉を聞いて「じゃあ、まあいいか」と進んでしまうクリニックが、後々大変な目に遭うこともあります。
アートメイクは医療行為です。
そして医療機関としての責任は、ナース個人ではなく、院長先生とクリニックに帰属します。
今回は、業務提携の話を受ける前にクリニック側が必ずチェックすべき項目を、実務的な視点で整理しました。
保険診療メインのクリニックの先生方には特に読んでほしい内容です。

チェック① 医師管理体制

アートメイクは針で皮膚に色素を入れる行為です。
医師法第17条により、これは「医療行為」に該当し、医師または医師の具体的な指示を受けた看護師のみが行えます。
保険診療と構造は全く同じです。
医師が診察し → 医師が具体的な指示を出し → 看護師が施術する。
この流れは絶対に崩してはいけません。
「先生、写真だけ見てOKしてもらえれば、あとは私がやります」
という運用は医師法違反です。
写真で確認するだけでは「診察」にはなりません。
また、ナースに施術を任せきりにして医師の指示が形骸化している状態も問題です。
医療事故が起きたとき、法的責任はクリニック・院長に向かいます。
☑️チェックポイント
☐ 必ず対面での医師診察を実施する
☐ 禁忌事項(アレルギー、感染症、服薬状況等)を医師が確認する
☐ 施術内容・使用色素・麻酔使用の可否を医師が指示書または指示記録として残す
☐ 再施術(タッチアップ)でも同様の確認フローを維持する
☐ カルテは必ずクリニック側で作成・保管する
※カルテについて
施術記録(使用色素・針・麻酔の有無・施術時間など)はナースが記録しても、
カルテへの最終記載・管理はクリニック側が行う必要があります。
電子カルテを業務委託ナースに直接触らせたくない場合は、
ナース用の紙カルテを別途用意し、クリニック側がそれを別途保管している場合もあります。

・オンライン診療の場合
最近、「診察はオンラインで済ませて、施術はナースが現地でやる」という運用モデルを聞くことがあります。
このスキームを使う場合は、厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(令和5年3月一部改訂)に完全に準拠する必要があります。
※私個人としてはオンライン診療には否定的です。

チェック② 契約形態:雇用か業務委託か

「業務委託です」と書いても、実態が雇用と変わらない場合は「偽装請負」と判断され、
社会保険料の遡及加入命令や労基署からの是正勧告が来ることがあります。
契約形態は「言葉」ではなく「実態」で判断されます。
・雇用にする場合
ナース側が雇用でもOKと言う場合、実は雇用のほうがシンプルで安全です。
☐ 社会保険(健康保険・厚生年金)の加入義務を確認する(週20時間超が目安)
☐ 源泉徴収・年末調整を行う
☐ ナースに他のクリニックとのかけもちがある場合、主たる勤務先の確認と住民税の特別徴収に注意する
「雇用は縛られる」と思っているナースが多いのですが、クリニック側から見ると雇用のほうが指示命令が明確で管理しやすい。
もしナースが雇用でいいと言ってくれるなら、そちらで進めることも一つの選択肢です。
・業務委託にする場合
業務委託は、設計を間違えると偽装請負になります。
☑️ チェックポイント
☐ シフトを固定化しすぎない(「毎週火・木に必ず来る」は雇用に近い)
☐ 施術の細かい手順・スタイルをクリニックが強制しない
☐ 他のクリニックへの掛け持ちを禁止する「専属条件」をつけない
☐ 委託内容・委託料・施術場所・責任範囲を契約書に明記する
厚生労働省の「偽装請負の判断基準」(平成24年告示)では、「具体的指揮命令を受けて自己の裁量なく業務を遂行する場合は労働者性が認められる」とされています。
「アートメイクは医師の指示のもとでナースが実施する医療行為」です。
つまり構造上、クリニックが指示を出す側・ナースが指示を受ける側になります。
この関係性そのものが「業務委託(請負)とは本来相性が悪い」という声が業界内にあるのも、
事実として知っておくことが重要です。
チェック③ お金の流れを正しく設計する

「患者さんからのお金はナースが預かって、後でクリニックに渡す」という運用をしているケースを耳にします。
これは医療法上の問題が生じる可能性があります。
患者との診療契約の当事者はクリニックであり、医療費はクリニックが受領するのが原則です。
☑️ チェックポイント
☐ 患者からの支払い → クリニックが受領する
☐ 領収書はクリニック名義で発行する (金額により、収入印紙が必要)
☐ ナースへの報酬は「クリニックからの業務委託料」として支払う
☐ ナースが患者から直接現金を受け取る運用は避ける
インセンティブの設計(売上に対して何%を支払うかなど)については、別途こちらの記事を参考にしてください

チェック④ 同意書・契約書はクリニックが準備する

「ナースが作ってきた同意書をそのまま使う」というクリニックがあります。
最近はChatGPTで同意書を生成してくるナースもいますが、
AI生成の文書は法律的に問題のある表現が含まれることがあります。
その場合は、クリニックの責任において、必ず内容を確認・修正してください。
☑️ チェックポイント
☐ 同意書の名義は院長名にする
☐ 同意書はリーガルチェックを経たものを使用する
☐ 必ず2部作成し、1部は患者に渡す、1部はクリニックで保管する(これは医療も美容も基本です)
☐ 未承認医療機器(アートメイクマシン・色素・針は原則未承認)を使用する旨を同意書に明記する
☐ 外部のカルテ保管システムやクラウドツールを使用する場合は、契約書にその旨とセキュリティ要件を明記する
・特商法(特定商取引法)の確認
消費者庁の定めにより、美容医療のうち以下に該当するものは「特定継続的役務提供」として特商法の規制対象となります。
対象となる条件:
①役務提供期間が1ヶ月を超える
②金額(税込)が5万円を超える美容医療契約
→ よくあるアートメイクの2回セット施術で、合計が5万円超かつ施術期間が1ヶ月を超える場合は、特商法の適用対象となる可能性があります。
☑️ チェックポイント
☐ 契約前に「概要書面」を患者に交付する
☐ 契約時に「美容医療サービス契約書(契約書面)」を交付する(これも2部、1部は患者へ)
☐ 契約書面を交付した日から8日以内はクーリングオフが可能であることを明記する
☐ 中途解約の条件・返金計算方法を明記する
書面を渡さないと、クーリングオフの起算日が始まりません。
半年後に「やっぱりやめたい」と言われても、全額返金を求められる可能性があります。
2回の役務提供にせず、1回単回の5万円未満の契約にするのが安心です
チェック⑤ SNS・広告

「ナース個人のインスタだから、クリニックは関係ない」という考えは通用しません。
クリニック名・診療科目が記載されている投稿や、クリニックと関係ある施術のビフォーアフターを掲載した投稿は、医療広告ガイドラインの対象になりえます。
☑️ チェックポイント
☐ ナースのInstagramの投稿内容を確認する
☐ ビフォーアフター(BA)投稿は6つのルール(患者同意・無加工・撮影条件統一・費用明記・個人差明記・医師確認)を守っているか確認する
☐ 「No.1」「痛みゼロ」「100%定着」などの誇大表現がないか確認する
☐ 割引強調・期間限定煽りがないか確認する
☐ インフルエンサーへの無料施術をナースが勝手に行っていないか確認する(PR表記なしは景表法違反リスク)
医療広告ガイドラインの詳細は別記事を参照してください。

チェック⑥ 料金設定

同じナースが複数のクリニックで施術しているとき、クリニックによって料金が違うと患者が混乱し、安いほうに流れます。
ナースの名前を出してPRする場合は特に、料金統一の話し合いが必要です。
☑️ チェックポイント
☐ 同一地域・同一ナースで料金が異なる場合のリスクを理解する
☐ ナースの名前でSNSを運用する場合は料金を統一する方向で合意する
☐ 価格改定時は契約書に明記する
チェック⑦ インボイス登録と消費税処理

業務委託でナースに報酬を支払う場合、相手がインボイス(適格請求書)発行事業者かどうかで、クリニック側の消費税の仕入税額控除に影響が出ます。
☑️ チェックポイント
☐ ナースが適格請求書発行事業者として登録しているか確認する
☐ 未登録の場合は、報酬の消費税処理について顧問税理士と相談する
☐ ナースに正しい請求書フォーマット(登録番号・消費税額の記載)を使ってもらう
☐ 免税事業者のナースとの取引継続の是非を経営判断として検討する
チェック⑧ 物品管理:色素・麻酔・マシンの仕入れルート

アートメイクで使うマシン・針・色素はほぼすべて国内未承認の医療機器または薬剤です。
個人輸入・管理のルールを守らないと薬機法違反(第68条)になります。
☐ 色素:ナースが手配しても可
☐ 麻酔クリーム(リドカイン等):医師名義での購入が必要。ナース個人名義での患者施術目的の輸入は違法
☐ 針・マシン:医療機器に該当するため、医師管理のもとで輸入・使用すること
物品の詳細は別記事を参照してください。

チェック⑨ 美容医療保険への加入

アートメイクでトラブルが起きた場合の訴訟費用・賠償は、通常の医師賠償責任保険でカバーされない場合があります。特に未承認医療機器の使用は、保険の対象外になるケースが多いです。
☐ 現在加入している保険で未承認医療機器使用の施術がカバーされるか確認する
☐ 保険診療と自由診療を併用している場合の保険適用範囲を確認する
☐ 訴訟費用補償が含まれているか確認する
☐ 弁護士・顧問税理士に相談のうえ、アートメイク導入に適した保険を検討する
ナース自体に保険入ってもらうのも手です。

チェック⑩ トラブル対応フロー

保険診療メインのクリニックはキャンセル料や返金ポリシーを設定していないことが多いです。
アートメイクは高額な自由診療なので、事前にルールを決めておかないと揉めます。
☑️ チェックポイント
☐ キャンセル料の設定(前日・当日キャンセルの扱い)を決める
☐ キャンセル料が発生した場合の、クリニックとナースの取り分を決める
☐ 色素の定着不良・左右差などのクレームへの対応フローを決める(再施術の条件・回数など)
☐ 重篤なアレルギー・感染症が起きた場合の医師対応フローを整備する

チェック⑪ 予約・部屋の運用ルール

アートメイクは1施術あたり3〜4時間かかるケースが多く、部屋の管理が他の診療に影響します。
特に経験の浅いナースは時間が読めないため、最初は余裕を持ったスケジュールが必要です。
☐ 予約管理をクリニック側が行うか、ナースに委任するか決める
☐ 1施術あたりの時間枠(最低3〜4時間)を設定し、他の診療と競合しないようにする
☐ 施術後の部屋の原状回復(清掃・備品補充)はナースの責任とすることを明記する
☐ ディスポーザブル製品(シーツ・手袋等)の費用負担をどちらが持つか決める
チェック⑫ 院内スタッフ割引の設計

院内のスタッフやナースにアートメイクを受けてもらうことで、導入をスムーズにできる場合があります。
ただし、2つの観点から注意が必要です。
① 医療広告上の問題
院内スタッフへのモニター提供を「症例」としてSNSや広告に使う場合、患者本人の同意と医療広告ガイドラインへの準拠が必要です。
「院内スタッフだから同意書不要、なんでもSNSに上げてOK」とはなりません。
② 税務上の経済的利益課税
スタッフに割引で施術を提供した場合、その差額は「現物給与(経済的利益)」として所得税の課税対象になりえます。
国税庁の通達によると、「サービス(役務)の割引提供」について、経済的利益が著しく多額である場合、または役員のみを対象とした場合に給与課税されるとされています。
実務上は通常価格の70%以上で提供していれば課税リスクは低いとされますが、明確な数字の定めはないため、半額(50%)での提供は課税リスクがある可能性があります。顧問税理士に必ず確認してください。
☑️ チェックポイント
☐ スタッフへの割引率を決める(実務上は通常価格の70%以上が目安)
☐ 割引施術を受けたスタッフの給与課税リスクについて顧問税理士に確認する
☐ 役員(院長)だけが割引を受ける場合は特に注意する
☐ 症例としてSNSに掲載する場合は本人の書面同意を取得する
チェック⑬ ナースの実力と経験値

アートメイクのフリーランスとして活動したいナースの中には、スクールを卒業したばかりで施術経験が浅い方もいます。
初めから自己集客で集客ができるナースもいれば、クリニックの集客に依存するナースもいます。
また、施術クオリティとクレーム対応力はだいたい比例します。
☐ 施術の自己申告症例数を確認する(目安:100症例未満は一定のサポートが必要)
☐ 卒業したスクールとそのアフターサポート体制を確認する
☐ これまでのクレーム・トラブル経験と対応方法を確認する
☐ 自己集客比率を確認する
もし症例数が少ない(20〜30件程度)ナースの場合、クリニック内でモニターを募集してまず経験を積んでもらうことを提案するのも一つの方法です。
院内スタッフへの施術や、知人をモニター価格で呼ぶなど、クリニックとして安全にサポートできる環境を作ることが、長期的な関係構築につながります。
まとめ

アートメイクの業務提携は、うまく設計すれば保険診療メインのクリニックに新しい収益の柱をもたらします。
ただし、医師管理体制・契約形態・お金の流れ・書類管理・広告運用という5つの軸をきちんと整えてから始めることが大前提です。
どれか一つでも甘くすると、行政指導・患者トラブル・税務調査という三重苦が来ることがあります。
今回のチェックリストを、提携前の必読事項として活用してください。
※本記事は一般的な情報提供を目的として作成しています。実際の運用にあたっては最新の法令・ガイドラインを確認のうえ、顧問弁護士・税理士にご相談ください。
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